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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

屍体の周囲には、四個所の傷口から滴り落ちた僅かなものだけが、ところどころ点滴を作っているだけであって、全身には大出血特有の不気味な羸痩が現われ、弛んだ皮膚は波打って、それが薄気味悪く、燐光色に透き通って見えるのだった。左は中指右は無名指が第二関節からない両手の甲は、骨の間がすっかり陥没して居て、指頭が細く尖って異様に光っているばかりではなく、膝蓋骨から下の擂木は、殆んど円錐状をなす迄に萎え細っていた。それから推して考えてみるに、夢殿の何処かには、恐らく大量の血液が残っていて、推摩居士は其処から運ばれたに違いなかった。けれども、一方四つの創傷が、それぞれに大血管や内臓を避けているのを考えると、血友病が到底あろう道理のない身体に、どうして斯かる大出血が起されたものか――その点が頗る疑問に思われるのだった。と云って、その四つ以外には針先程の傷もなくて、法水は簡単に全身を調べ終ってしまった。それを見て盤得尼が云った。

「これで、すっかりお解りになりましたでしょう。尼寺の鉄則を何故推摩居士だけに許していたか……。御覧の通りこの方は男でもなければ女でも御座いません。