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ゆめ

夢

和辻 哲郎

「新潮」1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页

青空文庫

そのように、命を悟ってあきらめに達している賢人に対しても、夢を説いて聞かせるのは無意味ではあるまい。夢へのあこがれがどれほど現実に動いているかを痛感させてやれば、命運で割り切ってあきらめの底に沈んでいる達人も、なんとかしなくてはという気持ちで、動き出してくるかも知れない。あるいはまたそういう達人は、夢の話を聞いて、その底に動いている命を達観し、それを解りやすく教えてくれるかも知れない。従って達人に対して夢を説くということは、少しも馬鹿げたことではない。これが陶淵明の句から当然帰結されてよい考えだと言ってよかろう。

右のシナ人の句では、夢というのが文字通りの夢であるのか、あるいは理想のことを比喩的に言っているのか、はっきりしないのであるが、理想のことを言っているのだとすると、空想的なユートピアの論や歴史的転回の必然性の論に関係がなくもなさそうである。しかし文字通りの夢を問題としているのだとしても、学者が夢の中から無意識の底の深い真実を掴み出してくれる現代にあっては、なかなか馬鹿にできぬ考えだといわなくてはならない。痴人に対して夢を説いても何にもならないが、精神分析学者の前で夢を説けば、自分にも解らない自分の真相を実に明白に開示してもらえるからである。