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ほんやくちぎのせつ
大尉の娘
神西 清
神西清『大尉の娘』。同一底本的分册已合并为一书。收入:翻訳遅疑の説、翻訳の生理・心理、翻訳のむずかしさ。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,030 字 · 21 页
一、二の語の言い換え、また全体として妙に時代がかった措辞は暫く問わぬにしても、時に破格は交えながら、しかも根底にはまさしく七五の律を踏んで、それがこのくだりを芝居の台詞がかったものにし、みごとに散文精神を踏みにじっているのだ。われながら弁解の余地もない邪道である。
例えば谷崎潤一郎氏の口語による文章は、非常に息の長いものであるが、また純粋に散文的な一種の音律に富むことは周知のとおりである。しかしもし現代の口語文をできるだけ凝縮させ、しかもこれに音律を与えようと企てるとき、七五調又はこれに近似の定形律に陥らずに済むか済まぬか、答は恐らく現在のところでは否であろう。僕は念のため或る言語学者に質してみたことがあるが、彼もやはりそれが日本語の本質だと答えた。では日本語は本質的に散文語ではないのか。これは恐らく、日本の言語の全般にわたり、且つ全歴史にさかのぼって、慎重に考慮されねばならぬ問題であるだろう。
抽象性の問題にせよ、散文音律の問題にせよ、これは必ずしも日本語にとって病疾ではないのかも知れぬ。ただこの今日のわれわれの口語というものが発生以来なお日が浅く、且つ発祥地たる東京が不幸にしてあらゆる方言の奇怪な雑居地帯であったため、謂わばまだ白湯がねれていず、散文という結構なお茶を立てるには適せぬだけの話かも知れ