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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

「野郎!」

と叫んで飛び掛かって行った。余人ならぬ源太夫であった。

「紫錦さんは※(感嘆符二つ、1-8-75) 紫錦さんは※(感嘆符二つ、1-8-75)」

「何を吠く! 死ってしまえ!」

源太夫は伊太郎の襟上を掴むと、ズルズルと火の中へ引き込もうとした。

と、焔に狂気しながら、馬が一頭走り出して来た。

「嬲殺しだ! 思い知れ!」

伊太郎は馬の背へ括り付けられた。

「ヤッ」と叫ぶと源太夫は竹槍で馬の尻を突いた。

馬は驀地に狂奔し、湖水の中へ飛び込んだ。

ワッワッと云う鬨声。火事は四方へ飛火した。

5

湖水は猛烈に荒れていた。火事は益々燃え拡がった。物凄くもあれば美しくもあった。

紫錦は小舟に取り付いたまま浪の荒れるに委せていた。火事の光が水に映り四辺が茫と明るかった。

その時何物か浪を分けて彼女の方へ来るものがあった。

「おや、馬だよ。馬が泳いで来る」

いかにもそれは馬であった。

「おや。黒だよ、黒来い来い!」

紫錦は喜んで声を上げた。

馬は馴染の黒であった。つまり彼女が芸当をする時、時々乗った馬であった。近付くままによく見ると誰やら馬の背にくくり付けられていた。