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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

「求型という所さ」

「一体どこの人だろう?」

「お前そいつを知らねえのか。――伊丹屋の若旦那だよ」

「え、伊丹屋? じゃ日本橋の?」

「ああそうだよ、酒問屋の」

「だって源ちゃん変じゃないか、ここはお前江戸じゃないよ」

「信州諏訪でございます」

「それだのにお前伊丹屋の……」

「ハイ、別荘がございます」

「おやおやお前さん、よく知ってるね」

「ちょっと心配になったから、実はそれとなく探ったやつさ」

「おや相変らずの甚助かえ」紫錦ははすっぱに笑ったが「苦労性だね、お前さんは」

「何を云いやがるんでえ、箆棒め、誰のための苦労だと思う」

「アラアラお前さん怒ったの」

面白そうに笑い出した。

「おい紫錦、気を付けろよ、いつも道化じゃいねえからな」

「紋切型さね、珍らしくもない」

紫錦はすっかり嘗めていた。

ところでその晩のことであるが、桔梗屋という土地の茶屋から、紫錦へお座敷がかかって来た。

「きっとあの人に相違ないよ」こう思いながら行って見ると、果して座敷に伊太郎がいた。

さすがに大家の若旦那だけに、万事鷹様に出来ていた。

酒を飲んで、世間話をして――いやらしいことなどは一言も云わず、初夜前に別れたのである。