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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

8

「ああ随分苦労したよ」トン公はちょっと寂しそうにした。

「俺らの一座へ来る前には、お前どこの座にいたな?」

「俺ら軽業の一座にいたよ」

「軽業の一座? ふうん、誰のな?」

「「釜無の文」の一座にだよ」

これを聞くと「爺つあん」は急にその眼を輝かせたが、すぐ気が付いてさり気なく、

「ああそうか「釜無の文」か……ところで諏訪ではご難だったそうだな」

「お話にも何にもなりゃあしない」

「それはそうと文の一座に綺麗な娘がいたはずだが?」

「幾人もいたよ、綺麗な娘なら」

「それ、文の養女だとか云う?」

「ああそれじゃ紫錦さんだ」

「うん、そうそうその紫錦よ、行衛が知れないって云うじゃないか」

するとトン公は得意そうにニヤリとばかり一人笑いをしたが「ああ行衛が知れないよ。……だが俺らだけは知っている」

「え?」と、「爺つあん」は眼を丸くした。「お前知っているって? 紫錦の行衛を?」

こう云う「爺つあん」の声の中には恐ろしい情熱が籠っていた。それがトン公を吃驚させた。

「おいトン公」と「爺つあん」は、夜具から体を抜け出させたが「ほんとにお前が知っているなら、どうぞ俺に話してくれ。お願いだ、話してくれ。