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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

気をつけてお帰り、気を付けてな」

そこでお錦は二品を貰い、急いで部屋を抜け出した。

送るというのをことわって、義哉と一緒に帰ることにした。

森然とふけた夜の町を、二人は並んで歩いて行った。

義哉から見たお錦という女は、どうにも不思議な女であった。華美な身装、濃艶な縹緻、それから推すと良家の娘で、令嬢と云ってもよい程であったが、その大胆な行動や、物に臆じない振舞から見れば素人娘とは受け取れない。

「不思議だな、見当がつかない。……だが実に美しいものだ。しかしこの美には毒がある。触れた男を傷つける美だ」

肩をならべて歩きながらも、警戒せざるを得なかった。

「ところで住居はどの辺りかな?」

こらえられずに訊いてみた。

「ハイ、日本橋でございます」

「日本橋はどの辺りかな?」

「あの伊丹屋という酒問屋で」

「はあ、伊丹屋、さようでござるか」

義哉はちょっとびっくりした。伊丹屋といえば大家である。その名は彼にも聞えていた。

「失礼ながら、ご令嬢かな?」

「ハイ、娘でございます」

「さようでござるか、それはそれは」

こうは云ったが愈々益々、疑わざるを得なかった。

「それほどの大家の令嬢が、こんな深夜に江戸の町を、あんな片輪者を一人だけ連れて、浅草あたりのあんな家を、どうして訪ねたものだろう? いやいやこれは食わせ物だ。