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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

踏み込んで行って斬り付けるのは、容易なことではあったけれど、義哉はそうはしなかった。ビューッと刀を振り廻し、

「まだ来る気か!」と威嚇した。

これは非常に有効であった。ワーッと叫ぶと破落戸どもは、手負いの仲間を捨てたまま、パラパラと四方へ逃げ散った。

その隙に義哉は走り出した。

朧ろの春の月影に、丘の方を透かして見ると、お錦をかどわかした一団は、今や丘を上りきり、向う側へ下りようとしていた。

で、血刀をさげたまま彼はその後を追っかけた。しかし頂上まで来た時には、彼等の一団は丘を下り、巴町の方へ走っていた。

そこで彼も丘を下り、彼らの後を追っかけて行った。

夜の静寂を驚かせ、彼らの走る足音は、家々の戸に反響したが、さてその戸を引き開けて、事件の真相を知ろうというような、冒険好きの者はいなかった。この頃は幕府も末の末で、有司の威令は行なわれず、将軍の威厳さえほとんど傾き、市中は文字通り無警察で、白昼切取強盗さえあった。

そこで、市民は日中さえ、店を開こうとはしないほどであった。

その時、破落戸の一団は、にわかに大通りから横へそれた。で、義哉もその後を追い、狭い露路を左へ曲がった。