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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
現代第一の智者と云えば、この俺の他にはない。つまり俺は日蓮なのだ。つまり俺は祖師なのだ。その祖師様を殺そうとは、とんでもない不届者だ。すぐに仏罰を蒙ろうぞ。……ああ、だが、本当に、いい音色だなあ。……」
春の夜風がそよぎ出した。
手近の木立で小鳥が啼いたが、きっと夢でも見たのだろう。
なまめかしい春の夜の、甘い空気を顫わせて、艶な肉声と三味線の音とは、なおあざやかに聞こえていた。
刺客は頭をうな垂れた。柄を握っていた右の手は、いつかダラリと下っている。と、一足しりぞいた。それからグルリとむきを変えると、もと来た方へ引っ返した。
その時、安房守は振り返った。
「これちょっと待て、伊庭八郎!」
「はっ」と云うとその刺客は、足を止めて振り返った。うら若い美貌の武士であり、それは伊庭八郎であった。八郎は父軍兵衛と共に、この時代の大剣豪、斉藤弥九郎、千葉周作、桃井春蔵、近藤勇、山岡鐡舟、榊原健吉、これらの人々と並称されている。身、幕臣でありながら、道場をかまえて門下を養い、心形刀流を伝えたが、直門二千名に及んだという。
幕臣も幕臣、奥詰めだったので、親衛隊の魁であり、伏見鳥羽の戦いにも出て、幾百人となく敵を斬った。