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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
「おどろき、梨の木、山椒の木だ。が、ままともかくもこの事件は、これで納まったというものだ。そこでこれからどうしなさる?」
「どうするってどうなのだよ?」
「一度こっきりじゃ済みませんぜ」
「じゃまたあるとでも云うのかい? 源ちゃん、そんなに執念深いかしら?」
「お前さんの遣り方一つでさあ」
「だって妾、これまでだって、随分お座敷へは呼ばれたじゃないか」
「それとこれとは異いまさあ。それはそれで金取り主義、ご祝儀頂戴の呼吸だったが、今度はどうやらお前さんの方でも、あの青二才に惚れているようだ」
「何を云うんだよ、トン公め!」
今から数えて十六年前、酒商伊丹屋伊右衛門は、この城下に住んでいた。
旧家ではあり資産家ではあり、立派な生活を営んでいた。お染という一人娘があった。その時数え年漸く二歳で、まだ誕生にもならなかったが、ひどく可愛い児柄であった。夫婦の寵愛というものは眼へ入っても痛くない程で、あまり二人が子煩悩なので、近所の人が笑うほどであった。
ところがここにもう一人、藤九郎という中年者が、ひどくお染を可愛がった。甲州生れの遊人で――本職は大工ではあったけれど、賭博は打つ酒は飲む、いわゆる金箔つきの悪であったが、妙にお染を可愛がった。