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だいのうしゅじゅつ

大脳手術

海野 十三

「富士」1945(昭和20)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,185 字 · 31 页

青空文庫

そして私は、鏡というものを極度に恐怖する身の上とはなった。全くあさましき限りである。

顔がすっかり変ったということは、淋しきことではあるが、その代り都合のいいこともあった。それは、今まで私を知れる者が、今では私だといい当てることができなかった。鳴海さえ、町で出会っても、気がつかないで私の傍をすれちがって行ってしまう。私はたいへん気楽になった。

或るとき、私は図らずも一つの問題に突当った。それは外でもない。こうして容貌も変り、声も変り、四肢から臓器までも変り果てた現在の私は、果して本来の私といえるかどうかという問題であった。こんな苦を経てきたというのも、元々本来の私というものが可愛いいためであった。ところが、よく考えてみると、本来の私というものが、今では殆んど残っていないのである。残っているのは脳味噌だけだといっても過言ではない。あとは皆借り物だ。質の悪い他人の部品の集成体だ。そんないい加減の集成体が、果してやはり愛すべき価値があるかどうか、甚だ疑わしい。この問題は意外にも非常に深刻な問題であった。私はこの問題に触れたことを大いに後悔した。しかし手をつけてしまった以上、もうどうすることもできない。