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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

一

清澄の茂太郎は、ハイランドの月見寺の三重の塔の九輪の上で、しきりに大空をながめているのは、この子は、月の出づるに先立って、高いところへのぼりたがる癖がある。人に問われると、それは、お月様を迎えに出るのだというが、しかし今晩は、どうあっても月の出ないはずの晩ですから、茂太郎も、それを迎えに出る必要はないはずです。

天には星の数

地にはガンガの砂の数

大声あげてうたいました。

してみると、茂太郎は、星をながめるべくこの塔の上へのぼったものです。

茂太郎が、星をながめる興味は、今にはじまったことではありません。

「星は雨の降る穴だ」

と教えられた時分に、ふと清澄山の頂で、海の上高く、無数の星をつくづくとながめて、

「穴ではない、星だ、星だ」

と叫んだのが最初で、それからこの子は、天界の驚異のうちに、星の観察を加えました。

見れば見るほど、星の正体がこの子供には神秘にも見え、また親愛にも見え出して来たので、月を迎えに出るのを口実に、ほんとうは星の数をかぞえて帰ることが多かったものです。

もとより、この子は、天文の観察を、少しも科学の基礎の上には置いていない。