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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

浅吉と二人ばかりあとに残されてみると、急に座敷がテレてしまって、なるほど、あの陽気な人が一人いるといないでは、こうも違うものかと思わせられるくらいです。

それでも、お雪は急に暇乞いをして立ち出でるわけにもゆかずに、後家さんの戻るのを待っていたが、その戻るのが意外に手間取れるので、もどかしく思いました。多分お手水にでも行ったのだろうが、それにしては長過ぎるとお雪が待ちあぐむ頃には、浅吉が落着かなくなって、しきりに気を揉んでいる様子が、ありありと見えますから、お雪は、

「おばさん、どうしたんでしょう、帰りが遅い」

いらいらしていた男妾の浅吉は、やがて声を低くして、

「お嬢さん――」

と、お雪のことを呼びました。

「はい」

お雪は、この男にも同情を持っているのです。同情というものは、広い意味の同情で、同情の中に異性の思いやりを含むという次第では無論ありません。いわばお雪は誰に対しても親切な娘であります。

「あなたのお連れのあのお方は、あれはお兄さんですか……」

「いいえ、兄ではありません、親類の……」

とお雪が煮えきらない返事をしました。

「お目が悪いんですね」

と言いますと、