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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

だから、物やさしい声で、

「それから茂坊、お前には御贔屓があることを忘れやしめえ。貴婦人――というのはなんだが、しかるべき後家さんや、御殿女中なんてのが、お前を可愛がりたがって、やいのやいのをきめていることを忘れやしめえ。叔父さんが話してやるから帰んな……よ、お寺へ話をしてやろう。お寺の誰に話をすりゃいいんだえ」

「叔父さん、御免よ、あたいは江戸へ帰りたくないんだから」

「わからねえことを言いっこなし」

「いいえ。じゃあね、叔父さん、弁信さんに相談して来るから、待っていて頂戴」

「弁信さんてなあ誰だい」

「あたいのお友達……今、縁側に腰をかけていたでしょう」

「あ、あの、小さい坊さんか」

「ええ、あの人に相談して来るから、待っていて下さい」

「それには及ばねえよ」

がんりきの百蔵は、茂太郎の左の手を容易には放そうとしないで、

「おいらが行って話をつけて上げるから。もともとお前はこっちのものなんだ――こっちといっては少しなんだが……親方のところへ帰る分には、誰も文句のいい手がなかろうじゃねえか」

「でも……」

「いいッてことよ」

がんりきは茂太郎の手を引張りました。

「ああ、弁信さあん」