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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

そこで宿に秘蔵の、鉄砲一挺も持ち出されることになる。この鉄砲とても、いつぞや、塩尻峠のいのじヶ原で持ち出された業物と、弟たり難く、兄たり難い代物ですが、それを持ち出した留守居の源五の腕だけは、あの時の一軒屋の亭主よりも上らしい。

こうして鉄砲が一挺に槍が二本、同勢六人で押し出した熊狩隊は、行く行く熊の話で持切りです。

熊は必ず一頭では歩かない、親の行くところには必ず子が従うということ。熊の掌の肉がばかに美味いということ。熊の胆の相場。熊は山を歩くにも、猪や、鹿のように、どこでもかまわぬという歩き方をしない、だから、ここを追えばここへ出るという待ち場所はちゃんときまっている――というようなことを話し合う。

池田良斎はそれを聞いて、商売商売だと思う。よく朝鮮征伐の物語で、勇士が虎に接近した昔話を読むが、この辺の猟師もそれに負けないことをやる。そうしてかれらは、それを冒険だとも、手柄だとも思っていない。かえってその冒険よりも、熊一頭の所得を偉大なものだと信じていることを不思議がる。

暫く進んで、ようやく山深く分け入った時、

「ソラアいた、いた――ソレ、あすこで動いてるのを見ろやい」