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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
江戸を計るものは、甲州を慮らなければ仕事ができない、家康も甲州の武田が存する以上は天下が取れなかったのだ、甲州は捨てておけない」
と言いますと、神楽師の長老が眉根を曇らせて、
「甲府が関東の険要であるとおなじ理由によって、飛騨の国が京畿の要塞になるのでござる――ごらんなさい」
と言って懐中から一枚の地図を取り出して、南条力の前にひろげ、
「ごらんの通り、飛騨の高山は、彦根に対して俯して敵を射るの好地にあるではござらぬか、加賀と尾張の二大藩を腹背に受けているようではござるが、一方は馬も越せぬ山つづき、一方は大河と平野によって別天地をなしてござる、一路直ちに西へ向えば、彦根までは手に立つ藩はござらぬ、飛騨を定めてしかして後に……」
話ぶりによると、南条力はまず甲州を取らなければならぬといい、神楽師の長老は、それよりも飛騨を取るのが急務であると主張し、おのおの天険と地の利を説いて相譲らないらしいが、なにぶんにも二人の会話は、席の中心を離れた内談だから、中央の高談放言に消されて、その話がよく聞えない。ややあって神楽師の長老が、
「では、貴殿、ともかく高村卿におあいくだされよ、今明日あたり当地へおつきのはずでござる」