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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「いやになっちまうね」

お絹はじれ出しました。それほどいやならば、この場を立って奥へでも行ってしまえばよいのに、いやになりながら、流し目で、七兵衛の運ぶ金包を眺めている。七兵衛はすました面で、気障な手つきで、相変らず、ゆっくりゆっくりと金包を鎧櫃に蔵い込んでいる。なるほど、この手つきで、まだうずたかい金を蔵い込むには、夜明けまでかかるかも知れない。

七兵衛も気が知れない男だが、口では早く蔵えの、いやになるのといいながら、それを横目で見て見ない態度をしながら、いつまでも坐っているお絹の気も知れない。

「七兵衛さん」

「え」

「覚えておいで」

と言って、不意にお絹が立ち上って奥の方へ行ってしまいますと、そのあとで七兵衛は、鎧櫃のそばへゴロリと横になりました。

十三

神尾主膳はこのごろ「書」を稽古しています。これ閑居して善をなすの一つ。

そこへお絹がやって来て、

「ねえ、あなた」

殿様とも、若様ともいわず、あなたといって甘ったるい口。

「何だ」

主膳は法帖とお絹の面を等分に見る。

「七兵衛のやつ、いやな奴じゃありませんか」

「ふーむ」

主膳は、サラサラと文字を書きながら聞き流している。