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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
幸か不幸か、道庵先生がソクラテスほどの哲人でなかった代りに、相手がギリシャの若殿原ほどの弁論家でなかったから、霊魂は調和か、実在か、の微妙なところまでは進まず、
「先生、おいらは、もう一ぺん軽井沢へ帰りてえのだ」
米友が悠然として、哲学から、感傷に移りました。
米友のは、難問を吹きかけて道庵を苦しめるが目的ではなく、軽井沢のお玉のことが気になってならない。
ここまで足の運びの重いのも、その一種異様なるきぬぎぬの思いに堪うることができないで、それが魂の問題となって穂に現われたというだけのもの。
この男は、もう一度、軽井沢へ帰って、しみじみとお玉という女と話がしてみたいのだ。お玉の面影が、どうしてもお君に似ている。そうして、特別に自分にとっては親切であったことが、忘れられない。
魂というものがあって、人に乗りうつるものならば、たしかにお君の魂は、あの女に乗りうつっている。名さえ前名のお玉とあるではないか。
米友は、この二里八町の道を、絶えずそのことばかり思うて、後ろ髪を引かれ引かれてこれまで来ました。途中、幾度も、この杖も、荷物も投げ出して、軽井沢へ駈け戻ろうかと思いつめては、思い返し、思い返し、ここまで来たのだが、ついに堪えられなくなって、ここで投げ出したものらしい。