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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
」
「そこが芝居だよ」
「芝居とはいいながら、岩見重太郎をやる以上は、岩見重太郎らしいものを出さなけりゃなるまい、あれでは、海老蔵はこのくらいエラいぞということを丸出しで、岩見という豪傑は、テンデ出ていない」
「そう理窟をいうな、そこが芝居だよ」
「芝居とはいいながら、名優というものは、すべての役の中に自分というものを打込んで、それに同化してしまわなければ、至芸というものが出来るものではない、たとえば団十郎の由良之助に、由良之助が見えず、団十郎が少しでも出て来た以上は、団十郎の恥だ。しかるにこの芝居は海老蔵だけが浮き上って、重太郎は出て来ない、この海老蔵は人気取りの場当り役者で、決して名優の部類ではないぞ」
仏頂寺弥助がこういうと、四辺の桟敷の人が聞き咎めました。この連中はすべて海土蔵に随喜渇仰している連中で、息をもつかないで海老蔵を讃美している。その傍でこういって、つけつけと自己崇拝の名優を貶しつける者があるのだから、自分の本尊様の悪口でもいわれたように、非常に腹を立てて、不興な眼をして、仏頂寺の方を睨まえましたけれど、なにしろ腕っ節の利きそうな武家扮装の一座ですから、喧嘩を吹きかけようとする者もありません。