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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
されば茶道の紹鴎様は、もと本姓が武田であったのを、その頃、武田信玄様という一世の英雄があったので、あんな偉い人と同姓では恐れ多いといって、わざと武野様と改めたのだ。曲亭馬琴様が正木大膳様を政木大全様と改めたのは、やはりその時に、お旗本に同名の人があったからそれを遠慮したのだ。名人、大家でなくとも、人間として、そういう礼儀がなかるべからざるものだ。それを貴様らの分際で、だいそれた名前を冒し、盲目千人の世を欺こうとしてもそうは問屋が卸さぬ。この道庵の如きは武州熊谷以来、ちゃあんとそれを見抜いている。あのここな不埒者様!」
と言って道庵は、痛くもない扇子で、無性にピシャリ、ピシャリと弁慶を叩きました。
仏頂寺が押えているところを叩くのだから、叩く方も骨が折れない代り、叩かれる方もあんまり痛くない。
しかし、この続けざまが幾つ続くのだかわからない。無性に叩き出し、しまいには一貫三百の調子で叩き出したから、仏頂寺も見ていられないで、
「御老人、いいかげんになさい」
と窘めました。そこで道庵が扇子を引き、
「恕し難き奴なれども……」
と勿体をつけて、そこで改めて道庵が、仏頂寺を煽るような、宥めるようなことをいって煙に巻き、とうとう弁慶を解放させて、一座へ引渡すことにまで運びました。