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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「百姓! 貴様たちに、勧進帳の有難味がわかってたまるか!」

と叫びました。その有様は、見物に向って喧嘩を売るような調子でしたから、一時は見物もみんな呆気に取られていると件の周章者は、いよいよ急き込んで、

「百姓! 手前たちに芝居がわかるか!」

これはあまりに聞き苦しい言葉ですから、誰もこれを聞いて胸を悪くしないものはありません。芝居の方でも、これは悪いところへ、よけいな口を利いてくれたものだと心配し、見物の方ではようやく腹に据え兼ねていると、

「百姓! 江戸の芝居が見たけりゃ、出直して来い!」

そこで立ったのが、例の川中島の上月一家の百姓たちでありました。

「ナニ、百姓がどうした?」

今まで坐っていたこの一座が、初めて総立ちになりますと、統領の上月が、必ずしもそれを留めませんでした。

「百姓!」

楽屋の周章者は、真青になってまた罵りかけた時、十余人の川中島の百姓たちが、気を揃えて舞台の上へ飛び上ったから、またまた問題がブリ返りました。

「百姓がどうしたというのだ」

福島正則以来の気概といったようなものを持つ川中島の百姓たちは、早くもその気障な周章者を取囲んでしまいました。