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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

に残る神人の恨みは永久に尽きない。けだし、石の無心の風車が、無限にクルクルと廻るのも、帰らぬ人の魂を無限の底から汲み上げる汲井輪の努力かも知れない。

上代の神人は申すも畏し――わが親愛なる、わが微賤なる宇治山田の米友に於てもまた、この「あがつまの国」にやるせなき思いが残るのです。

それ以来、米友には死というものが、どうしてもわからない。死というものを現に、まざまざと実見はしているけれども、その実在が信ぜられない。

このたびの道中に於ても、米友が――若い娘を見るごとに、それと行き違うごとに、物に驚かされたように足を止めて、その娘の面を篤と見定め、後ろ姿をすかし、時としては、ほとんど走り寄って縋りつくほどにして、そうして、諦めきれないで、言おう様なき悲痛の色を浮べて立つことがある。その時にはさすがの道庵も、冷評しきれないで横を向いてしまうことさえある。

さればこうして高きところ、人無きところに立って、感慨無量に「あがつまの国」を眺めるのも無理はありますまい。

さて、米友をひとりここへ残しておいて、連れの道庵先生はどこへ行っている。

道庵は峠の町で少し買物があるからといって、米友を先に、この熊野の権現の石段を上らせておいたのですが――それにしても、あんまりきようが遅い。