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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

自分にかかわったことではない――とお銀様は再び冷然として、また竜王松原の中へ足を踏み入れること一歩。

そこに、また人間の呻く声を聞く。

お銀様は、やはりそれを、殺された琵琶の息を吹き返して、本能的にこの世に向って助けを求める声だと聞きました。

だが、琵琶の死んだのと、生きたのが、何の自分にかかわりがある――

今度は思い切って、後をも見ずに松原へ走り入ると、またしても人の呻く声が頭上に聞えました。

お銀様は何ともいえないいやな気持になりました。それは助けを求めて聞き入れられない琵琶が、必死の恨みを罩めて自分を追いかけて来て、自分の頭の上で泣いたと思ったからです。

お銀様はまさしく琵琶の幽霊に追われたと思いました。

そこでお銀様は三たび冷然として立って、静かに顧みたが、松の木の間を通して見る街道の琵琶の死骸は、以前の通り身動きもしたとは思われない。

お銀様は、その呻吟の声の起るところを知るに惑いました。幸いにしてお銀様は、悪魔の戯れには慣れている。況んや琵琶の脅迫に怖れて、吾を忘れるようなことはありません。自分の頭の上の、松の枝から、自分の頭とすれすれに、これは本物の人間の死骸が一つ吊下げられてあることを知りました。