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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
曾無一善の身には、世間の衣一枚は私の悩みでございました……」
弁信が例によって一気にここまで喋ったのを、お銀様はどう聞いたか、
「弁信さん、私のうちへおいでなさい、あなたに着物を着せて上げますから……」
お銀様は弁信法師を伴って、故郷の有野村へ帰りました。
お銀様自身は故郷にそむいていたつもりだが、故郷はお銀様の来るを温かく迎えます。父の伊太夫は泣いて喜び、既往一切の我儘を忘れてくれました。
今まで、ことごとくわれにつらしと思っていた家中のすべてが、みな温かい心を雨のように降らして、そむいて来たものを、なついて来たもののように迎えるのは、多少お銀様のかたくなな心を解いたかも知れません。
しかし、その日は暗いうちにわが一間に入り、翌日は一切、日の目に自分の顔を見せず、無論、家中の誰にも面会ということをしないで、お銀様は、おのが部屋に籠りっきりであります。
それと反対なのは弁信法師で、もう、たどりついたその晩から、有らん限りのお喋りを発揮して、当るを幸いに相手として喋り続け、今朝も起きて、倉に所蔵の白無垢の小袖と、黒の法衣を着せられた時から、人に向って喋りました。