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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
そこで、その夜もすがら、米友が煩悶を続けました。
道中の旅籠屋の飯盛女――昔はこれを「くぐつ」といい、今は飯盛、あるいは宿場女郎という。東海道筋でいってみると、五十三駅のうち、官許の遊女屋のあるのは駿河の弥勒町だけで、あとは品川でも、熱田でも、要するに飯盛女――駅という駅に、大小美醜の差別こそあれ、この種類の女の無いというところはない。これを美化すれば大磯の虎ともなり、詩化すれば関の小万ともなる。東海道名所図会の第五巻に記して曰く、
「駅路の遊君は斑女、照手の末流にして今も夕陽ななめなる頃、泊り作らんとて両肌ぬいで大化粧。美艶香には小町紅、松金油の匂ひ濃やかにして髪はつくもがみのむさむさとたばね、顔は糸瓜の皮のあらあらしく、旅客をとめては……」
云々と筆を弄しているが、名所図会という名所図会には、この駅路の遊君を不美人に描いたのは一つもない。ここの玉屋のお玉さんが、死んだお君に似ていたか、いないかは疑問ですけれども、玉屋の看板を背負って立つだけに、この駅では、指折りのあだっぽい女であったことは疑いがないらしい。
水性のお玉さんは、誰にも愛嬌を見せるように、米友にも最初から愛嬌を見せていました。