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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
30 畜生谷の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页
そこで、勢い、大勢の者も米友を相手にして、一応挨拶の形をつけねばならなくなりました。
「なあに、畜生のことですから、今はあんなに騒いでも、直ぐに忘れてしまいまさあね、打捨っておいて下さいまし」
こう言って、米友をなだめにかかったが、米友はそれを肯じません。
「いまに、忘れるか、忘れねえか、それは熊に聞いてみなけりゃわからねえ、眼前、こうして恋しがるのを人情として、見殺しにするのは罪だあな。その皮をくれてやんな、あんなに欲しがるんだから、皮をあの子熊にくれてやんなよ、いくらのもんでもなかろうじゃねえか」
「へ、へ、どういたしまして、これでなかなか安い品じゃございません、玩具にくれてやれるはずのものじゃございません」
「そんなら、おいらに売ってくれねえか」
米友が、かさにかかって一同を見下ろしながら、買収の交渉を持ち出したものです。
三十七
ほどなく、鳴海の宿で、名古屋へ向って行く大八車の上に、上述の穀物の片荷と、その間に四角な鉄の檻と、鉄の檻の中に、いったん縛られた手足を解放された子熊と、その子熊に、しっかりと抱かれた親熊の皮と……それから、鉄の檻をそっくり両股にかかえ込んで、杖槍を荷ったまま車上の客となっている、宇治山田の米友の姿を見出しました。