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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

「だらしのない奴等だ」

と言いながら、竜之助は不意に起き上ったのは、厠へ行きたくなったのでしょう。それを察したお雪は、自分も起き上って、かいがいしくしごきを締め直して案内に立ち上ります。いつもならば竜之助は、そんなことを辞退するか、お雪が知らない間に寝床を抜け出して、ついぞ手数をかけたことはないのですが、ここははじめての宿ですから、勝手が悪いと思ったのでしょう、お雪ちゃんのする通りに竜之助は導かれて、縁の外へ出ると、その間、お雪は肌の寒さをこらえて障子の外に立って待っていました。そうして、見るともなく夜の空を見ると、ここも山国とはいえ、白骨よりは、はるかに天地の広いことを感ぜずにはおられません。

白骨は壺中の天地でありましたけれど、ここは山間の部落であります。溶けて流れない沈静が、ここへ来ると、なんとなく陽気に動いていることを感じます。

お雪は、白骨に残して置いた同行の久助さんのことを考えました。

わたしたちは一足先に平湯へ行っているから、荷物をとりまとめ、強力を頼んで、二日や三日は遅れてもかまわないから、あとから来て下さいと言って置いて、白骨を抜け出すには抜け出したが、お雪ちゃんの本心を言うと、この辺で久助さんをまいてしまいたいのです。