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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
30 畜生谷の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页
十五
誰が復命したものか、この、素晴しい少年の道場荒しが乗込んで来たという報告が、いつのまにか、主人の耳に伝えられたと見えて、奥の間から、現われて来たその人は、いわゆる「新お代官」という人なのでしょう。肥った、色のドス黒いところに赤味を帯びた、それで背はあんまり高くはない男が、小姓に刀を持たせて、よい機嫌で、そこへ現われて来て、家来を相手の兵馬の稽古ぶりを、無遠慮にながめながら、ニタニタ笑っているのを見ました。
御機嫌はいいに違いないが、それは一杯機嫌であることもたしかです。
稽古が済んでから、兵馬は、この「新お代官」に引合わせられる。「新お代官」は兵馬の腕の見事なのをほめた上に、どうかできるだけ長く留まって、指導してもらいたいということ、自分はこれから出かけるが、今晩は、ゆっくり君と話したい――というようなことを言うて出て行きました。
その夜、兵馬は改めて、この「新お代官」に招かれて、御馳走になりつつ話をしたが、わかったようでわからないのは、この「新お代官様」だと思いました。
水戸の生れだということだが、そうだとすれば、どうして直轄地の代官になれたかということが判然しない。