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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
30 畜生谷の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页
土地きっての大家の余勢でしょう。おのおのが線香をあげたり、水をやったりする。
時としては、こういう席が、かえって賑やかになるもので、故人の徳をたたえてみたり、その邪気のない失敗談をすっぱ抜いてみたり、また泣く泣くも、よい方を取るべき遺品分けの方へ眼が光ったりして、湿っているうちにも、かなりの人間味が漂うべきはずであるが、この席に限ってほとんどそれがないのです。
お義理だから集まっては来たけれども、いずれも、むっつりとした顔をして、特に何かの故人のしのびごとを言い出でようという者もなく、どうして発見して、誰がいつ持って来たかということを、念を押す者もなく、よく見つかったという者もなく、悪く持ち帰したという者もなく、全くお義理で、イヤイヤながら寄って来たという空気が充満して、全く白けきったお通夜の席が出来上りました。
こんな空気の中に、たった一人、目立ってハシャイでいるのは、新家の徳兵衛といって、イヤなおばさんには甥か何かに当る、それでも、もう相当の年配で、三十七八というところ、女房も、子供も、充分に備わってしかるべき分家の主人であります。
この男が、万事をとりしきって、白けきった席の蝋燭の心を切らしたり、湿っぽい席に笑いの種を蒔かせたり、ひとりで、座を取持とうとしている努力が見えます。