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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
33 不破の関の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页
はその故である。
ただ、かくの如く、器用であり、魅惑的の芸能を持ち、食物に不平を言わない当世向きの性格を持ちながら、自分が自分としての巣を作ることを知らない、他動物の掘った穴の抜けあとを探しては、おずおずとそこを占領して自分の仮りの住家とする、追い出されれば直ちに出て行く代り、岩の穴でも、木のうつろでも、身を寄せて雨露を凌ぐところさえあれば、そこに身を寄せてまた不平を言わない代り、いつまで経っても自分の力を以て文化住宅を営もうなんていう心がけはないのです。
この原始的にして、進取の心なく、抵抗の力に乏しい小動物は、今し夜陰、こうして食物をあさりに出たものと見える。その出動がはからずも、紙屑買であり、焼跡せせりであるところの、のろま清次の仕事を脅す結果になったとは自ら知らない。
自分が人を脅して、かえって自分がそれにおびやかされている。
紙屑買ののろま清次は水たまりのところまで息せき切って避難してみたが、この敵は存外手ごたえがなく、いつぞや焼跡で見た幽霊であり、辻斬の化け物であり、柳の下で組み伏せられた若衆のような手硬い相手でないことに気がつくと、またそろそろと、おばさんの最期の焼跡の方へ立戻って来ました。