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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
33 不破の関の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页
自分の力の及ぶべきところと、及ぶべからざるところと、見境のないほどの頭の悪くない米友が、走りながら歯噛みをするのも全く無理はありません。ところが、天なる哉、この場に当って忠勇なる米友のために、偶然に助け舟――とかりに信ぜらるるところのものが米友の眼前に現われました。
九
それは、枇杷島の青物市場へ青物をつけて行った一頭の馬が、馬子に曳かれて、帰りの空荷の身軽さに蹄を勇ませて、パッタリと横道から米友の眼前に現われたものです。
それを見ると、馬鹿でない米友の頭が咄嗟に働きました。
そうだ、この場合、おいらの足では、おいらでなくても普通以上の人間の足でも、あの先生の急に赴くことはできないことだ。
これを拝借するに限る――この四足の力を借りるに限る。この時、この際、自分の眼前に駒の蹄が躍り出したのは、渡りに舟というか、迎えに駒というか、ともかくも与えられたる天の助けであらねばならぬ。
それを頭に閃めかした米友の心持は機敏なものでしたけれど、かく俊敏に感得したが最後――そこに所有権の観念が圧倒されてしまって、人の物、我が物という差別観がくらまされてしまったのは是非もありません。