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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

それから後は、ここでくんずほぐれつ両箇の乱取り組打ちがはじまってしまいました。

人通りが黒山のようにたかり出したのは、申すまでもないことです。

十

この甚目寺の音公が相撲の手を相当に心得ているということのほかに、なおいっそう米友にとって戦いにくいことは、戦いの名分が、どうしてもあちらに取られてしまいそうなことです。

この音公は、軽井沢に於ける裸松のように、街道筋から毒虫扱いにされているというほどではないのみならず、草相撲で博した贔屓も人気もあるのに、相手にとった一種異様なグロテスクは、土地の人にさっぱり顔馴染がないのみならず、「馬泥棒馬泥棒」という相手方の宣伝が甚しく、米友にとって不利なものになります。

事実この音公は、米友を馬泥棒以外の何者とも解釈のしようがなく、見物の人々も馬泥棒の仕業とよりしか米友の仕業を信じ得べき事情を知らないから、すべての環境も、心証も、いよいよ以て米友を不利なものに陥れてしまうのです。

ただ、かくて見物しながらも、寄ってたかって米友を袋叩きにしてしまわないことは、米友の働きが俊敏であって、怖るべきものがある上に、その態度にドコやら真摯なるものがあって、左右なくは手出しのできない気勢に打たれて、そのまま見ているだけのものですから、群集心理の如何によっては、どう