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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

「不審に候」

家老の松野主馬が答えると、他の一人の家老の稲葉正成が言う、

「大谷刑部も存外、目先の見えぬ愚将じゃわい」

「愚将とは?」

「あれは志を翻して、石田三成を助けに行くのでござる」

「治部少輔へ加勢にか……」

「螳螂の軍に加わるきりぎりすのようなものでござる」

一軍の間に嘲笑が起ろうとする時に、家老の松野主馬がそれを遮った。

「大谷ほどの者がなんで成敗の道を知らぬはずがござろう、あれは石田を助けに行くのではない、三成に首を与えに行くのだ」

「首を与えに」

「あの汚ない首を……」

一軍の間に嘲笑の色が動くのを、松野主馬がまた抑えた。

「事の成るを知りつつ事を共にするは尋常のこと、わが不利を見て相手に節を売るは売女の振舞――成敗を眼中に置かず、意気を方寸に包んで、甘んじて弱きに味方する英雄の心情、それは英雄のみが知るものに相違ない、偉なる哉、刑部少輔――」

嘲笑の色が、この悲壮なる讃美の声で圧倒されてしまった。

小早川金吾中納言秀秋の血気の上に、愴然たる雲がかかる。

家老松野主馬は、それに附け加えて、全軍に諷するところあるが如く、主人に諫むるものあるが如く――またいささか自ら絶望の気味あるかの如く、次のように言う、