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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

「若衆、毎日御苦労だね」

伊太夫が一人足に向って、こんな会釈を賜わるほどのことは例外でありました。

「はい、はい、おかげさまで毎日、有難く働かせてもらっております」

「お前はほんとうによく働く」

杖をとめたなりで、伊太夫がちょっとその場を動こうとせぬのも、思いがけないことと言わなければなりません。

常ならば、番頭や書き役が附いて見廻りをなさるはずなのに、今は誰もついていないのみか、わざわざひとり、この藪をくぐって来られた態にも見えるし、与八に向って、特別に念入りの挨拶をすると共に、杖をとめているのは、何かまた特別に与八に話したいことがあるために、事にかこつけて、人目を避けてこれまで来たもののように見られないでもありません。

そこで与八も、大口をあいて無遠慮に握飯を頬張ることもなり兼ねていると、伊太夫が、

「若衆さん、お前さんはどこから来なすった」

今度はなお特別ていねいに、さん附けであります。与八は答えました、

「はい、はい、恵林寺の和尚様からのお引合せで、御当家様へ御厄介になることになりましたのでございます」

「おお、そうそう、忘れていた、慢心和尚からの御紹介のはお前さんだったか」