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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

「はい、はい」

「生れはどこだね」

「武州の沢井というところでございます」

「そうかね――当分、こちらにいなさるか」

「こちら様の御用が済みましたらば、これからまた西の方へ旅をしてみようと思っているのでございます」

「西の方へ――西はどこへ」

「どこといって当てはございませんが……」

「当てが無い――」

伊太夫は、ちょっと面を曇らせて、与八と郁太郎とを等分に見おろしました。

「はい」

「当てがなければ、お前さん、当分わしのところにいてはどうだ」

「そりゃ御親切さまに有難うございますが、御用が済んだ上に、長く御厄介になっちゃあいられましねえ」

「用なんぞはいくらでもあるよ」

「はい」

「仕事なんぞはここにいくらでもある、この普請が終ったからといって、そうさっぱりと出て行かなくってならんというはずのものではない」

「そうおっしゃっていただくのはいよいよ有難うございますが、実は、わしたちも心願がございまして、諸国を巡ってみてえとこう思って出て参りました身の上でございます」

「そりゃ、諸国を巡ることは悪いとは言わないが、どうだ、もう少し、普請が終るとか、終らないとかいうような時をきめる必要はない、いやになる時節まで、わしがところにいてもらえないかな」