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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

この場合、先方よりはこちらの方が予備感覚のあっただけに、認められることが遅く、認めることが早かった勝味はありました。

先方の当の主はおそらく、こちらが何者であるかということは突きとめる余裕がなくて首を引込めたことがたしかと見られるのに、こちらはその瞬間にも、存外よく先方の面体を認めることができたのです。

お雪ちゃんは、その瞬間の印象では、この辺で、ちょっと灰汁抜けのしたイナセな兄さんだと認めると共に、どうもどこかで見たような男だと感じました。

だが、わざわざ物好きにあの捨小舟を訪れてみようという気もせず、むしろこんなところは早く通り過ぎた方がよいと考えて、今までよりは急ぎ足に弁信の先に立ちました。

しかし、その捨小舟の近間を通り過ぎたかと思うと、また以前よりも増した緩々たる足どりで、弁信に話しかけながら、悠々として堤上を歩いて行くのです。

二十四

お雪ちゃんが、弁信に向ってまたこういうことを言いました――

「弁信さん、わたしはこのごろになって、つくづくと人間は慾だと思いました、親兄弟だとか、親類だとか言いますけれど、詰るところみんな慾ですね」