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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
無論、それは三藐院のことだから、書いてあるのは和歌に相違ないとは思うが、この和歌が、古歌であるか、或いは三藐院自らの作になるものであるか。
伊太夫は、そういう心持で特にこの掛物の文字の解読にとりかかってみると、
置くは露
誰を食はうと鳴く烏
と二行に認められてあったので、ひどく頭をひねらざるを得ませんでした。
これは和歌ではない、発句だ。三藐院とある以上は、誰が考えても和歌でなければならないはずなのに、こう読みきったところでは、発句であるほかの何物でもない。
三藐院が、書画ともに堪能であられたことは知っているが、発句を作られたことは曾て聞かない。また三藐院が発句を作られる道理もないと思う。連歌の片われかと思えばそうではない、立派に独立した発句になっている。と同時に伊太夫は、この発句が、たしかに誰かの句であったということの記憶が呼びさまされました。誰だっけな、芭蕉でなし、鬼貫でなし、也有でもなし……
置くは露
誰を食はうと鳴く烏
伊太夫が、しきりにその句の主を探し出そうと試みていると、天井の上から非常に気味の悪い鳴き声をして、髑髏をめがけてパサと飛び下りて来たものがあります。