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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

今時、御三家の殿様だって、これだけのものは、めったにゃあ差しません、こしらえだけを外して、そっくり捨売りにしたところで、あなた、相当のものでございますぜ」

と言って、頬かむりは、いちいち指さしをしながら、お銀様の方へ向って、脇差のこしらえの説明をしている。代物そのものは、能書通りのものかどうかわからないが、こいつの喋るこしらえの知識だけは附焼刃に違いない。それから一段、声を落して言うことには、

「それはそれとして、お嬢様、ここんところをひとつ篤とごらん下さいまし、ここの栗形の下のところに、下り藤の定紋が一つ打ってござんす、これが、そのやはり申すまでもなく金無垢で……もちろん、これをお差料になすっていたお方のお家の御紋に相違ございません、この通り金無垢で、下り藤の定紋がこの鞘に一つ打ってござんす」

七十七

頬かむりの忍び男が、お銀様の眼の前に投げ出した脇差を指しながら、こんなことを言い出したので、お銀様が思わずちょっと向き直りました。

「なに、下り藤の定紋が?」

「はいはい、その通りでございます、お見覚えはございませんか――どうか篤とお手にとって御一覧を願いてえもので……」