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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
神尾主膳は興奮のうちにも、三ツ目錐を急所へキリキリと押揉むような、何かしらの痛快を感じたと見えて、額の三眼が、クルクルと炎のように舞い出したのです。
こうなった時は、触るるものみな砕くよりほかはない。傍えにあればあるものを取って抑えて、むちゃくちゃにその興奮のるつぼへ投げ込むよりほかはない。
お絹という女がいれば、こういう興奮を、忽ち取って抑えてぐんにゃりさせてしまう。三ツ目錐の炎を消すには、頽廃しかけたお絹という女の乳白色の手で抑えると、主膳はたあいもなく納まる。そうでなければ酒だ。傍えに酒があれば手当り次第にあおることによって、この興奮を転換させる。転換ということは解消ではない。一時、その興奮を酒に転換させて、方向だけをごまかしてみるだけのもので、酒をあおるほどに、興奮がやがて捲土重来して、級数的にかさにかかって来るのは眼に見えるようなもので、そこで例の兇暴無比なる酒乱というやつが暴れ出して来て、颱風以上の暴威を逞しうする。
今日は、この場にお絹がいない――酒がない。
お絹は異人館へ泊り込んでいる。
酒類は一切隠されている。使を走らせても、近いところの酒屋では融通が利かないことになっている。