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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

武術鍛錬のことなどが、おくびにも周囲の話題に上ったことはないのだが、只今、偶然にも、このおっちょこちょいの口から、武芸のことが飛び出して来た。

それを主膳は小耳にひっかけて、奇妙な気になった途端から、昂奮が少しずつ醒めてきました。

その気色が緩和された様子を見ると、人の鼻息を見ることに妙を得たびた助は、するすると神尾の間近く進んで来ました。もう打たれる心配も、叩かれるおそれもないと見て取ったのでしょう。果して御機嫌の納まりかけた神尾は、対話になってから、自分ながら事珍しいように、びた助に向ってこんなことを言いかけました――

「なるほど――びた公、貴様に今おだてられて、おれは変な気になったのだがな」

「変な気などにおなりになってはいけやせん、その変な気になりなさるのが、殿様の玉に瑕なんでげす」

「変な気だといって、どんなに変なんだか貴様にわかるか」

「変な気は変な気でげすよ、変った気色でげすな、いわば正しからざる気分でげしょう、正は変ならず、変は正ならず、変は通ずるの道なり、君子の正道じゃあがあせん」

「くだらないことを言うな、今おれが言った変な気というのは、貴様にいま言われて、なるほどそうだと気がついたのは、おれの家も旗本では武芸鍛錬の家で、おれも子供の時分から相当武芸を仕込まれていたことだよ、ことに槍に於ては、