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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
びた一代の知恵を搾って、腕によりをかけてごらんに入れますから、少々お気を長くお待ち下さい。そもそも兼好ほどの剛の者がついておりながら、高武蔵守師直が塩谷の妻でしくじったのも、短気から――すべて色事には短気がいちばんの損気。
というようなおべんちゃらを、びた助が繰返して、またともかくも神尾主膳を一応まるめ込んでしまいました。
さて、それからようやく、金助改めびた公が、今日ここへ神尾をそそのかしに来た来意のほどを申し出る段取りになりましたが、その問答は、
「時に、今日は例の悪食の御報告を兼ねて推参、ぜっぴおともが仰せつけられたい――ところは三輪町の金座――時間は正七ツ――」
ということの誘いでした。
「行こう」
神尾が一議に及ばず賛成したものですから、
「有難え――」
と仰山らしく、びた助が自分の頭を叩いて、そうして、駕籠を、乗物をというのを断わって、神尾が、
「三輪までは一足だ、ブラブラ歩こうではないか」
「結構でげす、金座へ向けてブラブラ歩き、これが当時はやりの金ブラでげす」
神尾主膳は、縮緬の頭巾を被って三ツ眼の一つにすだれをおろして、一刀を提げて立ち上ると、びたはころころしながらその後について、外へ出かけたのですが、その目的地は今もびた公が言った通り、三輪町の金座――というところであり、その目的は悪食――にある。