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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
その行きがけに鐚をも振り飛ばして、何でもかまわず早く逃げろと言った。
この要領で、加害者側の二人は姿を消してしまったのだが、気の知れないのは斬られた方の被害者です。
理不尽に斬りつけられたのだから、驚くのは当然であり、驚いて一時は前後不覚に逃げ出すのも当然であるが、それも程度問題で、後顧の憂えがなくなってしまいさえすれば、改めて訴えて出るか、身辺の人に、その危急を物語るとか、そうでなければお医者へ駈込むとか、担ぎ込まれるとか、何とかしなければならないのに、こいつがまた全く行方不明でありました。
だから、この騒動は、動揺だけはずいぶん烈しく、いまだに附近の人心は恟々としているのですが――当事者は、加害被害ともに跡かたもなくなっている。騒動は騒動だが、狐につままれたようになっている。
「斬ったのは、身分ありげな侍だ」
「斬られたのは、水戸の百姓だ」
「斬ったやつには、お供が一人ついていた」
「そいつはたぬきのような奴だった」
「斬ったおさむらいは、旗本のおしのびらしい」
「斬られたのは、水戸の百姓」
どちらも根拠のある説ではないが、斬られた方を、水戸の百姓ときめてしまったのがおかしい。