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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

さりとて、へたに離れてこのわたしというものが、仏頂寺に見つけられでもしたら、それこそ最後――

福松は、それを懸念しながら木蔭を出たり離れたりして、兵馬の安否を気遣いましたけれど、兵馬から音沙汰がなく、そうかといって、仏頂寺との間に、見つけた、見つけられた、という問題を起しているような形勢は少しもない。

それだけに、福松はまたいっそう気を揉んで、隠れがの樅の木立の下を一尺離れて見たのが二尺となり、三尺となり、一間となり、二間となって見たが、なんらの動揺が起らないのです。

とうとう我慢しきれなくなって、三間と、五間と、這うようにして叢の中を廻って見ますと、秋草の中に立っている宇津木兵馬の姿をたしかに認めました。

呆然として、ただ立ち尽しているのです。

笠も、合羽もつけないで、黒い紋附に、旅装い甲斐甲斐しい宇津木兵馬の立ち姿が、秋草の乱れた中に立ち尽していることだけは、間違いなく認められたものですから、福松は我を忘れて呼びかけようとして躊躇しました。

まだいけない。ああして、宇津木さんも、じっと様子を見て思案してらっしゃる。わたしがここで大きな声を出した日には、ブチこわしになるかも知れない。