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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

今ああして縛られて行ったのが、どうしてもその当人と思われてならぬ。あれが捕われたのだ、それがもはや疑う余地のないほどピタリと白雲の頭に来ました。

十三

上来の事件とほぼ時間を同じうして、距離に於ては向う岸の渡頭から南へ一里余を隔てた、追波川が湾入して、大きな沼池をなしているところの荒れ果てた石小屋の中の、一方へ空俵を重ねて、その上へ毛布を敷きこんで、寝そべっている若い女の子がありました。

島田に結った髪がほつれてはいるけれども、花模様の着物の着こなしも、朱珍の帯のしめっぷりもきちんとはしている。だがまた、いやに艶めかしいところもあって、寝そべって、細くて白い、そのくせ痩せてはいないで、少し蒼味を持った肉附のいい両腕を、双方から、ぼんのくぼあたりへあてがって、そうして甘えるような、また自暴のような声で、

「つまんない」

と言いました。

そうすると、つい、その戸じまり一重次になった臨時お台所で、

「ツマンナイコト無イデス」

と言う、がんまりした、その上、多分の寸伸びを持った応対。

見ると、そこに、不器用な手つきで、焜炉を煽って何物をか煎じつつあるその男は、これはずいぶん変っていました。