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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

そうして行くうちに、奥様は、旅の前途が心細くなればなるほど、この男を頼む心が強くなるのは当然です。頼られれば頼られるほど、奥様をいとしがるのが男の人情です。奥様の路用がだんだん軽くなるのを察した若党は、奥様に知らせないように、路用の足しを工面することに苦心しました。お米の小買いをして来て、木賃で炊いて食べさせたり、畑で野菜を無心したり、漁場で魚を拾ったりなどして、奥様のお膳に供えることもありました。奥様はそれを知って、胸には熱い涙を呑みながら、表には笑顔をもって箸をとりながら、世間話に紛らしたものです。

奥様の心の中は、この下郎に対する感謝と愛情でいっぱいです。奥様はこの若党に、まあ、どうしたらこの男に、この胸いっぱいな感謝の心を見せてやることができようかと、奥様はその思いに悶えました。でもさすがに、武家の奥様でございますから、厳格なところはどこまでも厳格でございました。質朴な若党は、主人の奥様に対して忠義を尽すことは、あたりまえのこととしか考えていなかったのですが――いつしか、この奥様の自分に頼りかたが、全く真剣であることを感じて、それが全く無理のないことと思いやった上に、自分もどうしても、もう他人でないような親身の思いに迫られて来るのです。