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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

勢いよく、小舟の櫓を押しきっている宇治山田の米友は、櫓拍子につれて、

十七姫御が

旅に立つ

それを殿御が

聞きつけて

とまれ

とまれと……

思わず知らず、うたい慣れた鼻唄が鼻の先へ出たのですが、何としたものか、急に、ぷっつりと鼻唄を断ち切った時、そのグロテスクの面に、一脈の悲愴きわまりなき表情が浮びました。

そこで、ぷっつりと得意の鼻唄を断ち切って、悲愴きわまりなき表情を満面に漲らしてみたが、やがて櫓拍子は荒らかに一転換を試みて、

さっさ、押せ押せ

下関までも

押せば

湊が近くなる

さっさ、押せ押せ

それ押せ――

実に荒っぽい唄を、ぶっ切って投げ出すような調子に変りました。

唄が荒くなるにつれて、櫓拍子もまた荒くなるのです。

さっさ、押せ押せ

下関までも

押せば

湊が近くなる

さっさ、押せ押せ

以前の調子に比べると、鼻息も、櫓拍子のリズムも、まるで自暴そのもののようです。

自然、小舟の動揺も、以前よりは甚だ烈しい。しかし、抜からぬ面で舳先に安坐した弁信法師の容態というものは、それは相変らず抜からぬものであり、穏かなものであると言わなければなりません。

それからまた、湖面の波風そのものも、以前に変らず、いとも静かなものだと申さずにはおられません。