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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
百三十三
「ごらんなさい、米友さん、あなたが、あそこでちょっと気が変ったばっかりに、この通り舟の方向が、すっかり変ってしまいました。毫釐も差あれば天地はるかに隔たるとは、まことにこの通りでございます」
米友はその時、櫓を休めて、眼をまるくして弁信の面を見ていましたが、
「なんと、お前という人はよく喋る人だなあ――ひとり合点で、ちんぷんかんぷんを言ったって、おいらには分らねえ」
と怒鳴りました。
けれど弁信は少しもひるまず、
「米友さんや、わたくしは一昨晩――胆吹山へ参詣をいたしましたのです、その時に、あの一本松のところで、山住みの翁に逢いました。たいへん、あそこは景色のよいところだそうでございましてね、翁は隙があるとあの一本松のところへ来ては、湖の面をながめることを何よりの楽しみといたしまして、ことに夕暮の風景などは、得も言われないと賞めておりましたが、その時にわたくしが、わたくしの眼ではその美しい風景も見ることができませんが、そんな美しい琵琶の湖にも、波風の立つことがございますかと聞きますと、それはあるとも、ここは胆吹の山だが、湖をさし挟んであちらに比良ヶ岳というのが聳えている、胆吹の山も風雪の多い山ではあるが、湖に対してはそんなに暴風を送らないけれども、あちらの比良ヶ岳ときては、雪を戴いた