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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

どう見直しても、鬼がこんな模範青年のような人相に化け得られるはずもなく、またその必要もあるまい。そこで再び、鬼というやつは婆様に化けたがるものである、現に安達の一つ家は、鬼婆アを主としてはじめて有名であり、渡辺綱をたばかりに来た鬼も、婆様の姿をして来たればこそ有効である。世に鬼婆アというものはあるが、鬼爺イというのはあんまり聞かない。まして、鬼がこんな凄味の利かない模範青年に化けたってはじまらないじゃないか。

でも、無気味な感じは持ちながら、七兵衛は、あんまり遠慮もせずに、炉中へ土足のままふんごんで、あたらせてもらいました。

真黒い鍋の中で、何かグツグツと煮ている。無論、米ではない、粟でもない、さりとて稗でもない、薯でもない。七兵衛は、その鍋の中を判断し兼ねていたが、そうかといって、人間の肝を煮ているわけでもないようです。

そうすると、件の男が薪を折りくべながら、

「でもまあ、よく鬼に喰われませんでのし」

またしても……あまりのしつっこさに、七兵衛グッと癪にさわり、

「鬼には喰われなかったが、若衆さん、安達ヶ原の広いにゃ驚きやしたよ」

「へえ――」

相当、壺を言ったつもりなのが、先方はかえってキョトンとして、ねっから響かないのであります。