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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
「安達ヶ原は広いねえ、若衆さん、この家の前にあるのが、あれが、名高い黒塚というのでござんすかい」
「へえ――安達ヶ原のこたあ、わし、よく知りましねえが、昔話に聞きやしたがなっし、それは上方の方の話でござんしょうがなっし」
「何だって……」
あんまり若衆の鈍重ぶりが念入りだものだから、七兵衛の方で、いよいよおどかされ通しです。安達ヶ原と、図星を指したつもりで言ってみても、この鬼の化け物は一向こたえず、それは上方の方の話でござんしょうがなっし、とつん抜けてしまう。そこで、七兵衛が相当突込んで、
「若衆さん、今この一つ家の前で見て来たが、あの人間の喰い散らかし――あの土饅頭が、あれが黒塚というやつではねえのかね」
「ど、どういたしましてなっし」
さすがに、若い男のやや周章てて何か弁明に出でようとした時に、戸外がけたたましくバタバタと烈しい人の足音で、
「カ、カ、カン作どん、オ、オ、オニが出たゾウ」
必死に戸へすがりついた人の声。
百五十二
七兵衛も煙にまかれてしまいました。
いったい、安達の鬼は外にいるか、内にいるのか、鬼の化け物であるべきはずの一つ家のあるじが、人のいい若者で、かえって旅人をとらえて鬼物語を誘発する。