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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
鬼が出たという注進を聞いて、出動したこの家の人数はまだ戻って来ない。彼等は出動のことに急であったために、七兵衛の存在を顧みる暇がなかったのです。そんなら彼等が戻って来て、七兵衛の存在に気がついた時はどうする。
その時は、その時のこと――と度胸を据えた七兵衛は、そのまま蒲団の中へ温く身を丸め込んだのですが、単に温く丸め込んだというだけで、この場合、温い夢を結ぶわけにはゆかないのです。寝込んでしまうわけにはゆかないが、とにかく、こうして久しぶりに蒲団と名のつくものの中にくるまってみると、身心おのずから休養の気分になる。
いくぶん休養の気分が出て来てみると、七兵衛は、自分が今こうして、ここまで追い込まれて来たことの径路を考えさせられて、またも我ながらの苦笑を禁ずることができません。
本来、自分がこういう羽目になったことは、仙台の城下へ足を踏み入れて、青葉城の豪勢なのに見とれた時から始まるのだ。
なるほど、奥州仙台陸奥守六十二万石(内高百八十万石)のお城は豪勢なものだ。豪勢なものではあるが、おれだって、これで、ほかならぬ天下の江戸城の千枚分銅に目をかけたことのある武州青梅の裏宿の七兵衛だ――という、つまらないところの気負いが萌してきたのが、持って生れた病気です。